信号処理 - 第4講
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村田 昇
満たすべき条件
- a,b∈V⇒a+b∈V (線形性)
- a,b,c∈V⇒(a+b)+c=a+(b+c) (結合則)
- a,b∈V⇒a+b=b+a (交換則)
- ∃0∈Vs.t.∀a∈V,a+0=a (零元)
- ∀a∈V⇒∃−a∈Vs.t.a+(−a)=0 (逆元)
- ∀λ∈K,∀a∈V⇒λa∈V (スカラ倍)
- ∀λ,μ∈K,∀a∈V⇒(λμ)a=λ(μa) (結合則)
- ∃1∈Ks.t.∀a∈V,1a=a (K の単位元)
- ∀λ∈K,∀a,b∈V⇒λ(a+b)=λa+λb (分配則)
- ∀λ,μ∈K,∀a∈V⇒(λ+μ)a=λa+μa (分配則)
内積の定義
ベクトル空間の2つの要素 u,v∈H に対して, 次の性質を持つ2変数関数を 内積 という.
- ⟨u,u⟩≥0 特に ⟨u,u⟩=0⇒u=0
- ⟨u,v⟩=¯⟨v,u⟩ (複素共役)
なお,体 K が実数の場合は ⟨u,v⟩=⟨v,u⟩- ⟨αu+βu′,v⟩=α⟨u,v⟩+β⟨u′,v⟩ (線形性)
定義
内積が定義されたベクトル空間を 内積空間 という.
完備性の定義
ある集合の中のCauchy列
limn,m→∞d(un,um)=0の収束先 limn→∞un がもとの集合に含まれるとき, その集合は 完備 であるという.
定義
ノルムに関して完備な内積空間を Hilbert 空間 という.
定義
Hilbert 空間 H の 部分集合 A が
∀ϕ,ψ∈A,ϕ≠ψ⇒⟨ϕ,ψ⟩=0となるとき, A を 直交系 という.
さらに
∀ϕ∈A⇒‖ϕ‖=√⟨ϕ,ϕ⟩=1となるとき, A を 正規直交系 という.
定義
Hilbert 空間 H の正規直交系 {ϕk} が Parseval の等式
∀u∈H,‖u‖2=∑k|⟨u,ϕk⟩|2を満たすとき, {ϕk} を 完全正規直交系 という.
定理
可分な無限次元 Hilbert 空間には 可算個 の要素からなる完全正規直交系が存在する.
定理
可分な無限次元 Hilbert 空間は l2 空間と同型である.
定理
{ϕk} が H の完全正規直交系のとき 以下が成り立つ.
∀u∈H⇒u=∑k⟨u,ϕk⟩ϕk
R 上の関数 f(x) が 周期 2π を持つ :
f(x+2π)=f(x)
対象とする関数は2乗可積分な複素数値関数とする
L2(−π,π)={f|∫π−π|f(x)|2dx<∞}
定理
{ϕn(x)=1√2πeinx,n=0,±1,±2,…}とし, f,g∈L2(−π,π) に対して内積を
⟨f,g⟩=∫π−πf(x)¯g(x)dxで定義する.
(定理のつづき)
f∈L2(−π,π) は以下のように Fourier 級数展開 される.
f(x)=∞∑n=−∞⟨f,ϕn⟩ϕn(x)=12π∞∑n=−∞einx∫π−πf(y)e−inydy=12π∞∑n=−∞∫π−πf(y)ein(x−y)dy
あとで示すように
{ϕn(x)=1√2πeinx,n=0,±1,±2,…}
は L2(−π,π) 上の 完全正規直交系 となる.
正規直交系 であること容易に確かめられる.
⟨ϕm,ϕn⟩=12π∫π−πeimxe−inxdx=12π[ei(m−n)xi(m−n)]π−π=0(m≠n),⟨ϕn,ϕn⟩=12π∫π−π1dx=1
区間 (−π,π) 上の周期関数 (鋸波)
f(x)=x,f∈L2(−π,π)
係数は以下の式を計算すればよい
⟨f,ϕn⟩=∫π−πx⋅1√2πe−inxdx
部分積分を用いて計算する (n≠0 のとき)
⟨f,ϕn⟩=∫π−πx⋅1√2πe−inxdx=[x⋅1−in√2πe−inx]π−π−∫π−π1⋅1−in√2πe−inxdx=π(−1)n−(−π)(−1)n−in√2π−[e−inx−n2√2π]π−π=i2π(−1)nn√2π−(−1)n−(−1)n−n2√2π=i√2π(−1)nn
n=0 も計算してまとめると以下のようになる
x=i∞∑n=−∞n≠0(−1)nneinx
Euler の公式
einx=cos(nx)+isin(nx)
を用いると三角関数で書くことができる
x=2∞∑n=1(−1)n−1nsinnx
f(x)=|x| に対して x=0 とすれば
∞∑m=01(2m+1)2=π28
f(x)=x2 に対して x=0 とすれば
∞∑n=1(−1)n+1n2=π212
三角関数による展開
Eulerの公式により以下のように変形することができる
f(x)=∞∑n=−∞anϕn(x)=∞∑n=−∞an√2πeinx=a0√2π+∞∑n=1(an√2πeinx+a−n√2πe−inx)=a0√2π+∞∑n=1(an+a−n√2πcosnx+ian−a−n√2πsinnx)
実数値関数の係数
関数 f(x) が実数値の場合
an+a−n√2π,ian−a−n√2πは実数になるので an と a−n は複素共役の関係にある.
定義域の異なる基底
L2(0,π) においては
{√1π,√2πcosnx;n=1,2,…}{√2πsinnx;n=1,2,…}がそれぞれ完全正規直交系となる.
以下の級数和を求めよ.
∞∑n=11n2(Basel problem)
step 1
関数 f が
f(x)=∞∑n=−∞⟨f,ϕn⟩ϕn(x)と展開されたとする.
step 2
Bessel の不等式(の特殊な場合)から
|an|<‖f‖であることはわかるが,
f(x)=∞∑n=−∞anϕn(x)の和が存在するとは限らない.
step 3
収束因子を導入して収束する無限和の極限を考える.
fr(x)=∞∑n=−∞anr|n|ϕn(x)0<r<1 とすれば級数和は必ず存在する.
step 4
級数和が収束するので積分と和を交換してもよい.
fr(x)=12π∞∑n=−∞r|n|einx∫π−πf(y)e−inydy=12π∫π−π∞∑n=−∞r|n|ein(x−y)f(y)dy
step 5
積分の中の級数和に着目して
Pr(x)=12π∞∑n=−∞r|n|einxとおく(Poisson 核という).
step 6
関数
Pr(x)=12π∞∑n=−∞r|n|einxの右辺の和の各項は (−π,π) の周期関数なので, (−∞,∞) に拡大可能である.
step 7
周期関数 f も同様に (−∞,∞) に拡大可能であるので, 一周期分の積分区間を適切に取り直して
fr(x)=∫π−πPr(x−y)f(y)dy=∫π−πPr(y)f(x−y)dyと書き変えることができる.
step 8
右辺の級数和を計算すると 以下になる.
Pr(x)=12π(∞∑n=0rneinx+∞∑n=1rne−inx)=12π(11−reix+re−ix1−re−ix)=12π1−r2|1−reix|2=12π1−r21+r2−2rcosx
step 9
r→1 とすると Pr(x) は Dirac のδ関数 となる.
- Pr(x)>0 (3行目の表現より明らか)
Pr の一周期分の積分は
∫π−πPr(x)dx=∫π−π12π∑nr|n|einxdx=1∀δ(0<δ<π) に対して
limr→1supδ≤|x|≤πPr(x)=0cosx は上記の範囲では cosδ で最大となることから
1−r21+r2−2rcosx≤1−r21+r2−2rcosδr→1→0
step 10
fr と f の差
fr(x)−f(x)=∫π−πPr(y){f(x−y)−f(x)}dyの積分を3つに分解して考える.
∫π−π=∫−δ−π+∫δ−δ+∫πδ
step 11
δ と r は適当に選ぶことができることに注意する.
- 積分の第1,3項では Pr をいくらでも小さくすることができる
- 第2項では f(x−y)−f(x) をいくらでも小さくすることできる
この結果, δ と r とを適当に選ぶことによって 3つの積分の和はいくらでも小さくなる.
step 12
以上より,各点 x において
limr→1fr(x)=∞∑n=−∞⟨f,ϕn⟩ϕn(x)=f(x)となることが示された.
周期関数 (∈L2(−π,π)) の Fourier 級数展開 :
f(x)=∞∑n=−∞⟨f,ϕn⟩ϕn(x)
Fourier 基底の完全性 :
{ϕn(x)=1√2πeinx,n=0,±1,±2,…}は完全正規直交系である.