信号処理 - 第1講
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村田 昇
定義
次の性質をもつ集合を体 \(K\) 上の ベクトル空間 \(V\) という.
体とは四則演算が定義された集合のことで, \(K\) をベクトル空間 \(V\) の 係数体 と呼ぶ.
ベクトル空間の満たすべき性質
- \(a,b\in V\,\Rightarrow\,a+b\in V\)
- \(a,b,c\in V\,\Rightarrow\,(a+b)+c=a+(b+c)\) (結合則)
- \(a,b\in V\,\Rightarrow\,a+b=b+a\) (交換則)
- \(\exists0\in V\,\text{s.t.}\,\forall a\in V,\,a+0=a\) (零元)
- \(\forall a\in V\,\Rightarrow\,\exists -a\in V\,\text{s.t.}\,a+(-a)=0\) (逆元)
- \(\forall \lambda\in K,\forall a\in V\,\Rightarrow\,\lambda a\in V\) (スカラ倍)
- \(\forall \lambda,\mu\in K,\forall a\in V\,\Rightarrow\,(\lambda\mu)a=\lambda(\mu a)\) (結合則)
- \(\exists 1\in K\,\text{s.t.}\forall a\in V,\,1a=a\) (\(K\) の単位元)
- \(\forall\lambda\in K,\forall a,b\in V\,\Rightarrow\,\lambda(a+b)=\lambda a+\lambda b\) (分配則)
- \(\forall\lambda,\mu\in K,\forall a\in V\,\Rightarrow\,(\lambda+\mu)a=\lambda a+\mu a\) (分配則)
幾何ベクトル
平行移動で互いに移り合う有効線分.
和は2つの有向線分で作られる平行四辺形の対角線で, スカラ倍は有向線分のスカラ倍で定義される.
\begin{equation} K=\mathbb{R},\;V=\mathbb{E}^{n} \end{equation}あるいはこの部分空間と同一視することができる.
数ベクトル
体 \(K\) の \(n\) 個の順序づけられた数の組. 和は成分ごとの和で, スカラ倍は各成分のスカラ倍で定義される.
関数空間 \(C^{m}[0,1]\)
区間 \([0,1]\) 上の実数値関数で, \(m\) 階微分可能な関数の集合. 和とスカラ倍は以下で定義される.
\begin{align} &(f+g)(x)=f(x)+g(x)&&\text{(和)}\\ &(\lambda f)(x)=\lambda f(x)&&\text{(スカラ倍)} \end{align}
定義
\(\lambda_{1},\dotsc,\lambda_{k}\in K\), \(a_{1},\dotsc,a_{k}\in V\) の重み付き線形和によって作られるベクトル
\begin{equation} \lambda_{1}a_{1}+\dotsb+\lambda_{k}a_{k}\in V \end{equation}を \(a_{1},\dotsc,a_{k}\) の 線形結合 という.
定義
“全てが \(0\)” ではないある係数の組 \(\lambda_{1},\dotsc,\lambda_{k}\) に対して
\begin{equation} \lambda_{1}a_{1}+\dotsb+\lambda_{k}a_{k}=0 \end{equation}となるとき, \(\{a_{1},\dotsc,a_{k}\}\) は 線形従属 であるという.
また
\begin{equation} b=\lambda_{1}a_{1}+\dotsb+\lambda_{k}a_{k} \end{equation}となるとき, \(b\) は \(\{a_{1},\dotsc,a_{k}\}\) に 線形従属 であるという.
定義
\begin{equation} \lambda_{1}a_{1}+\dotsb+\lambda_{k}a_{k}=0 \end{equation}となるのが \(\lambda_{1}=\dotsb=\lambda_{k}=0\) に限られるとき, \(\{a_{1},\dotsc,a_{k}\}\) は 線形独立 であるという.
関数空間 \(C^{m}[0,1]\)
\begin{align} &\{f(x)=x,\;g(x)=2x\} &&\text{(線形従属)}\\ &\{f(x)=x,\;h(x)=x^{2}\} &&\text{(線形独立)} \end{align}
定義
ベクトル空間 \(V\) の有限部分集合 \(S\) に対して, 線形独立な部分集合 \(B\subset S\) を考える.
\(\forall b\in S-B\) において \(B\cup\{b\}\) が線形従属のとき, \(B\) は \(S\) の 極大独立集合 であるという.
定義
有限部分集合 \(S\) の極大独立集合 \(B\) はいろいろあるが, \(|B|\) (基数 ; cardinality) は一定となる.
\(|B|\) を \(S\) の 階数 (rank) といい, \(\mathrm{rank} S\) で表す.
定理
階数については以下が成り立つ.
- \(\mathrm{rank}\emptyset=0\)
- \(\mathrm{rank}(S\cup\{b\})=\mathrm{rank}S\) または \(\mathrm{rank}S+1\)
\(\forall b_{1},b_{2}\) に対して
\begin{multline} \mathrm{rank}(S\cup\{b_{1}\})=\mathrm{rank}(S\cup\{b_{2}\})=\mathrm{rank}S\\ \;\Rightarrow\; \mathrm{rank}(S\cup\{b_{1},b_{2}\})=\mathrm{rank}S \end{multline}
定義
\(V\) の極大独立集合を \(V\) の基底と呼ぶ.
\(V\) の階数,すなわち極大独立集合の基数を \(V\) の 次元 (dimension) という.
定理
集合 \(B\) を \(n\) 次元ベクトル空間 \(V_{n}\) の基底とする.
\begin{align} &\dim V_{n}&&(\text{ベクトル空間の次元})\\ &=\mathrm{rank} V_{n}&&(\text{ベクトル空間の階数})\\ &=|B|&&(\text{基底の基数})\\ &=n \end{align}
定理
\(B=\{u_{1},\dotsc,u_{n}\}\) を \(V_{n}\) の基底とする. \(\forall b\in V_{n}\) は \(B\) に線形従属で,
\begin{equation} b=\lambda_{1}u_{1}+\dotsb+\lambda_{n}u_{n} \end{equation}と一意に表される.
証明
2つの異なる表現があっても
\begin{equation} (\lambda_{1}-\mu_{1})u_{1}+\dotsb+(\lambda_{n}-\mu_{n})u_{n}=0 \end{equation}となることより, \(\lambda_{i}=\mu_{i}\) となることがわかる.
定理
\(B=\{u_{1},\dotsc,u_{m}\}\) を ベクトル空間 \(V_{n}\) の \(m(\le n)\) 個の ベクトルの集合とする.
\(\forall b\in V_{n}\) が \(B\) に線形従属ならば \(B\) は \(V_{n}\) の基底となる. したがって \(m=n\) である.
線形独立(一次独立) : \(\{\phi_{i}\}_{i=1,\dotsc,n}\)