確率変数

確率・統計 - 第4講

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村田 昇

前回のおさらい

  • 確率密度
    • 確率密度の積分による確率測度の表現
    • 確率密度の満たすべき条件
    • Riemann積分とLebesgue積分
    • いろいろな確率分布

1次元の確率変数

確率変数の定義

  • 定義

    ある試行 \(T\) の確率空間を \((\Omega,\mathcal{F},P)\) とする.

    \(\Omega\) から実数 \(\mathbb{R}\) への写像

    \begin{align} X:\; &\Omega\to \mathbb{R}\\ &\omega\mapsto X(\omega) \end{align}

    として定義される実数値関数 \(X(\omega)\) を確率空間 \((\Omega,\mathcal{F},P)\) 上の (実)確率変数 (random variable) と呼ぶ.

確率変数の例

  • 骰子振りの確率変数

    骰子を振ると(出た目 \(\times 100\) )円の賞金が貰えるとする.

    骰子の目を \(\omega\) で表すと賞金 \(X\) は

    \begin{equation} X(\omega)=100\omega \end{equation}

    という確率変数であると考えることができる.

  • 二回の骰子振りの確率変数

    骰子を二回振ったときの出た目の和を考える. このときの標本空間は

    \begin{align} \Omega &=\{(\omega_1,\omega_2)|\;\omega_1,\omega_2=1,2,\dotsc,6\}\\ &=\{1,2,\dotsc,6\}\times\{1,2,\dotsc,6\} \quad\text{(直積集合)} \end{align}

    となり, 出た目の和 \(X\) は確率変数である:

    \begin{equation} X(\omega_1,\omega_2)=\omega_1+\omega_2 \end{equation}

    出た目の大小で確率変数を定義することもできる:

    \begin{equation} Y(\omega_1,\omega_2)= \begin{cases} 1,& \omega_1>\omega_2\\ 0,& \omega_1=\omega_2\\ -1,& \omega_1<\omega_2 \end{cases} \end{equation}
  • ルーレット回しの確率変数

    “ルーレット回し”の試行において, ルーレットの目盛り \(\omega\) が有理数なら1点, 無理数なら0点の得点が得られるとする. このとき点数

    \begin{equation} X(\omega)= \begin{cases} 1, & \text{\(\omega\)が有理数}\\ 0, & \text{\(\omega\)が無理数} \end{cases} \end{equation}

    は \(\Omega=(0,1]\) 上の確率変数である. 同様に出た目盛りが0にどれだけ近いかに応じて 点数がもらえるとする. この点数を

    \begin{equation} Y(\omega)=\log\frac{1}{\omega} \end{equation}

    で定めれば, \(Y\) も \(\Omega=(0,1]\) 上の確率変数である.

  • 骰子振り

    “1が出るまで骰子を振り続ける”試行で得られる標本点を \(\omega\) とする. このとき,系列 \(\omega\) の長さ

    \begin{equation} X(\omega)=\text{系列\(\omega\)の長さ} \end{equation}

    は自然数 \(\mathbb{N}\) の値を取る確率変数と考えることができる.

  • 工場の製品

    ある工場で生産されるエンジンの抜き取り検査をして, 最大出力と燃費を測定したとする. この場合は標本点 \(\omega\) は生産されるエンジンの個体を表し, 最大出力 \(X(\omega)\) と燃費 \(Y(\omega)\) は個体 \(\omega\) ごとに異なる 確率変数であると考えることができる.

確率変数の確率空間

確率変数の標本空間

  • 定義

    確率変数 \(X(\omega)\) は \(\omega\) が従う確率法則によってばらつく確率的な量であるため, 確率変数 \(X(\omega)\) の確率空間を考えることができる. 確率変数 \(X(\omega)\) の取り得る全ての値の集合を 確率変数 \(X\) の標本空間 (sample space) と呼ぶ.

    \begin{equation} \Omega^X =X(\Omega) \qquad \text{(\(\Omega\)の各点を\(X\)で写像した像(点)の集合)} \end{equation}

確率変数の確率法則

  • 標本点の写像

    標本空間 \(\Omega^X\) の任意の部分集合 \(B\) に対して “\(X\) の値が \(B\) に入る” (\(X\in B\)) という事象を定義する. この事象に含まれる元の標本空間 \(\Omega\) の標本点は

    \begin{equation} A =\{\omega|\;\text{\(X(\omega)\)が\(B\)に入る}\} =\{\omega|\;X(\omega)\in B\}\subset\Omega \end{equation}

    であり \(A\) の確率は元の確率空間で考えることができる.

    \begin{equation} P(\text{\(X\)の値が\(B\)に入る})=P(A) \end{equation}
  • 事象の写像

    \(X\) を \(\Omega\) の部分集合から \(\mathbb{R}\) の部分集合へ対応させる関数

    \begin{equation} B=\{X(\omega)|\;\omega\in A\}=X(A) \end{equation}

    とみなして,その逆関数を

    \begin{equation} X^{-1}(B)=\{\omega|\;X(\omega)\in B\}=A \end{equation}

    によって定義する.

  • 確率測度の変換

    \(X\) の値が \(B\) に入る確率は

    \begin{equation} P(X^{-1}(B))=P\{\omega|\;X(\omega)\in B\} \end{equation}

    と表される. これを \(B\) の関数とみて

    \begin{equation} P^X(B)=P(X^{-1}(B)) \end{equation}

    と書くと, \(P^X\) は \(\Omega^X\) 上の \(X\) の 確率測度を表す.

    \(\Omega^X\) は \(\mathbb{R}\) の部分集合なので, \(\Omega^X\) 上の Borel 集合族を \(\mathcal{F}^X\) と書くことにすれば, \((\Omega^X,\mathcal{F}^X,P^X)\) も確率空間になる.

  • 確率測度の条件の確認

    事象の写像の基本的な性質

    \begin{align} &X^{-1}(B_1+B_2)=X^{-1}(B_1)+X^{-1}(B_2)\\ &X^{-1}(\Omega^X)=\Omega \end{align}

    より \(P^X\) が条件を満たしていることが確認できる.

    \begin{align} P^{X}(B) &=P(X^{-1}(B))\ge0 &&\text{(正値性)}\\ P^{X}(B_{1}+B_{2}) &=P(X^{-1}(B_{1}+B_{2}))\\ &=P(X^{-1}(B_{1})+X^{-1}(B_{2}))\\ &=P(X^{-1}(B_{1}))+P(X^{-1}(B_{2}))\\ &=P^{X}(B_{1})+P^{X}(B_{2}) &&\text{(加法性)}\\ P^{X}(\Omega^{X}) &=P(X^{-1}(\Omega^{X})) =P(\Omega)=1 &&\text{(全確率)} \end{align}

確率変数の確率空間の例

  • 二回の骰子振りの確率変数 \(X\)

    標本空間,および確率測度は以下のとおり.

    \begin{equation} \Omega^X =\{2,3,4,\dotsc,11,12\} \end{equation}
    \begin{align} P^X(X=2)&=P\left((\omega_1,\omega_2)\in\{(1,1)\}\right) =\frac{1}{36},\\ P^X(X=3)&=P\left((\omega_1,\omega_2)\in\{(1,2),(2,1)\}\right) =2\cdot\frac{1}{36}=\frac{1}{18},\\ P^X(X=4)&=P\left((\omega_1,\omega_2)\in\{(1,3),(2,2),(3,1)\}\right)\\ &\qquad=3\cdot\frac{1}{36}=\frac{1}{12},\\ &\vdots\\ % P^X(X=11)&=P\left((\omega_1,\omega_2)\in\{(5,6),(6,5)\}\right) % =2\cdot\frac{1}{36}=\frac{1}{18},\\ % P^X(X=12)&=P\left((\omega_1,\omega_2)\in\{(6,6)\}\right) % =\frac{1}{36} \end{align}
  • 二回の骰子振りの確率変数 \(Y\)

    標本空間,および確率測度は以下のとおり.

    \begin{equation} \Omega^Y =\{1,0,-1\} \end{equation}
    \begin{align} P^Y(Y=1) &=P\left((\omega_1,\omega_2)\in\{(2,1),(3,1),\dotsc,(6,5)\}\right)\\ &=15\cdot\frac{1}{36}=\frac{5}{12},\\ P^Y(Y=0) &=P\left((\omega_1,\omega_2)\in\{(1,1),(2,2),\dotsc,(6,6)\}\right)\\ &=6\cdot\frac{1}{36}=\frac{1}{6},\\ P^Y(Y=-1) &=P\left((\omega_1,\omega_2)\in\{(1,2),(1,3),\dotsc,(5,6)\}\right)\\ &=15\cdot\frac{1}{36}=\frac{5}{12} \end{align}
  • ルーレット回しの確率変数 \(X\)

    標本空間,および確率測度は以下のとおり.

    \begin{equation} \Omega^X =\{1,0\} \end{equation}
    \begin{align} P^X(X=1)&=P(\text{\(\omega\)が有理数})=0\\ P^X(X=0)&=P(\text{\(\omega\)が無理数})=1 \end{align}

演習

練習問題

  • ルーレット回しの確率変数 \(Y\)

    \begin{equation} Y(\omega)=\log\frac{1}{\omega} \end{equation}

    について,以下のそれぞれの項目を説明せよ.

    1. 標本空間
    2. 確率測度
    3. 確率密度

多次元の確率変数

多次元の確率変数

  • 同じ確率空間の上の複数の確率変数をまとめて ベクトルと見ることができる

    例 : 2次元の値を取る関数

    \begin{equation} \boldsymbol{X}(\omega)=(X_1(\omega),X_2(\omega)) \end{equation}

    を考えると,2次元の確率変数を考えることができる.

    これを 2次元確率変数 (2-dimensional random variable) あるいは 2次元の 確率ベクトル (random vector) という.

    一般に \(n\) 次元で考えてよい.

  • 標本空間や確率測度も自然に考えることができる

    \begin{equation} \Omega^{\boldsymbol{X}}=\boldsymbol{X}(\Omega) \end{equation}
    \begin{equation} P^{\boldsymbol{X}}(B) =P\{\omega|\;\boldsymbol{X}(\omega)\in B\} =P(\boldsymbol{X}^{-1}(B)),\quad B\subset\Omega^{\boldsymbol{X}} \end{equation}

多次元確率変数の用語

  • \(X_1(\omega),\dotsc,,X_n(\omega)\) : \(\boldsymbol{X}(\omega)\) の 成分変数
  • \(\boldsymbol{X}(\omega)\) : \(X_1(\omega),\dotsc,X_n(\omega)\) の 結合変数
  • \(P^{\boldsymbol{X}}\) (\(\boldsymbol{X}(\omega)=(X_1(\omega),\dotsc,X_n(\omega))\) の確率測度) : \(X_1(\omega),\dotsc,X_n(\omega)\) の 同時確率分布 (joint probability distribution)

確率変数の変換

確率変数の変換

  • 変換

    実数値関数

    \begin{align} \phi:\; &\Omega^X\to \mathbb{R}\\ &X\mapsto\phi(X) \end{align}

    に対して

    \begin{equation} Y(\omega)=\phi(X(\omega)) \qquad (Y=\phi\circ X\text{と書くこともある}) \end{equation}

    とすると \(Y(\omega)\) という新しい実数値確率変数ができる.

確率変数の変換の例

  • 二回の骰子振りの確率変数の変換

    骰子を二回振ったときの出た目の和を考え, 和が偶数なら100円貰え, 奇数なら50円支払うというゲームを考える. 骰子を二回振ったときの出た目をそれぞれ \(\omega_1, \omega_2\) とする. また,目の和を

    \begin{equation} X(\omega_1,\omega_2)=\omega_1+\omega_2 \end{equation}

    で表すとすると,賞金(罰金) \(Y\) は

    \begin{equation} Y(\omega_1,\omega_2)=Y(X)= \begin{cases} 100,& \text{\(X\)が偶数}\\ -50,& \text{\(X\)が奇数} \end{cases} \end{equation}

    という \(X\) が変換された確率変数である.

変換後の確率空間

  • 標本空間

    新しく作られた確率変数 \(Y\) の標本空間は, 変換を順に追って

    \begin{equation} \Omega^{Y}=\phi(X(\Omega))=(\phi\circ X)(\Omega) \end{equation}

    で定義される.

  • 確率測度

    \(\Omega^{Y}\) の適当な部分集合 \(C\) に対して, \(\Omega^{X}\) で対応する集合を \(B\) , \(\Omega\) で対応する集合を \(A\) とすると

    \begin{align} C&=\phi(B)=\phi(X(A))\\ B&=X(A)=\phi^{-1}(C)\\ A&=X^{-1}(B)=X^{-1}(\phi^{-1}(C)) \end{align}

    となるので,その確率測度は

    \begin{align} P^{Y}(C) &=P^{X}(B)=P(A) % &=P((\phi\circ X)^{-1}(C))\\ =P(X^{-1}(\phi^{-1}(C)))\\ &=P\{\omega|\;\phi(X(\omega))\in C\}\quad C\subset\Omega^{Y} \end{align}

    で計算される.

確率変数の平均値

離散分布の平均値

  • 定義

    標本空間が可算の場合, その確率空間上で定義された 確率変数 \(X\) の 平均値 (期待値) (expectation) は

    \begin{equation} \mathbb{E}[X]=\sum_{\omega\in\Omega}X(\omega)P\{\omega\} \end{equation}

    で定義される.

    • \(X(\omega)\) は \(\omega\) の関数であるが, 全ての可能な \(\omega\) について和を取っているので, \(\mathbb{E}[X]\) は \(\omega\) によらない量となっていることに注意する
    • また,確率変数は関数であるので, \(\mathbb{E}\) は関数 \(X(\omega)\) に作用する 作用素と考えることができる

平均値の例

  • 骰子振りの確率変数

    出た目の100倍の値である賞金 \(X\) の平均値(期待値)は, 骰子の目を \(\omega\) で表すことにすれば \(P\{\omega\}=\frac{1}{6}\) なので,

    \begin{align} \mathbb{E}[X] &=X(1)\cdot P\{1\} +X(2)\cdot P\{2\} +X(3)\cdot P\{3\}\\ &\qquad +X(4)\cdot P\{4\} +X(5)\cdot P\{5\} +X(6)\cdot P\{6\}\\ &=100\cdot\frac{1}{6} +200\cdot\frac{1}{6} +300\cdot\frac{1}{6} +400\cdot\frac{1}{6} +500\cdot\frac{1}{6} +600\cdot\frac{1}{6}\\ &=350 \end{align}

    である.

  • 二回の骰子振りの確率変数 \(X\)

    出た目の和 \(X\) の平均値は, 二つの目を \(\omega_1,\omega_2\) で表すことにすれば \(P\{(\omega_1,\omega_2)\}=\frac{1}{36}\) なので,

    \begin{align} \mathbb{E}[X] &=X(1,1)\cdot P\{(1,1)\} +X(1,2)\cdot P\{(1,2)\} % +X(1,3)\cdot P\{(1,3)\} +\\ &\qquad\dotsb % +X(6,4)\cdot P\{(6,4)\} +X(6,5)\cdot P\{(6,5)\} +X(6,6)\cdot P\{(6,6)\}\\ &=2\cdot\frac{1}{36}+3\cdot\frac{2}{36}+4\cdot\frac{3}{36} +\dotsb+11\cdot\frac{2}{36}+12\cdot\frac{1}{36}\\ &=7 \end{align}

    である.

  • 二回の骰子振りの確率変数 \(Y\)

    二つの目の大小関係で \(\{-1,0,1\}\) の値を取る確率変数 \(Y\) の平均値は

    \begin{align} \mathbb{E}[Y] &=Y(1,1)\cdot P\{(1,1)\} +Y(1,2)\cdot P\{(1,2)\} % +Y(1,3)\cdot P\{(1,3)\} +\\ &\qquad\dotsb +Y(6,5)\cdot P\{(6,5)\} +Y(6,6)\cdot P\{(6,6)\}\\ &=1\cdot\frac{15}{36}+0\cdot\frac{6}{36}+(-1)\cdot\frac{15}{36}\\ &=0 \end{align}

    である.

連続分布の平均値

  • 定義

    確率測度 \(P\) に確率密度 \(f\) がある場合, その確率空間上で定義された 確率変数 \(X\) の 平均値 (期待値) (expectation) は

    \begin{equation} \mathbb{E}[X] =\int_\Omega X(\omega)P(d\omega) =\int_\Omega X(\omega)f(\omega)d\omega \end{equation}

    で定義される.

    • 連続分布の場合も \(X(\omega)\) は \(\omega\) の関数であるが, \(\omega\) に関して積分しているので, 平均値 \(\mathbb{E}[X]\) は \(\omega\) によらない量となっていることに注意する

平均値の例

  • ルーレット回しの確率変数

    ルーレットの目盛りが有理数か無理数かで \(\{1,0\}\) の値を取る 確率変数 \(X\) の平均値は

    \begin{equation} \mathbb{E}[X] =\int_{0}^{1} X(\omega)\mu(d\omega) =1\cdot\mu(\text{有理数})+0\cdot\mu(\text{無理数})=0 \end{equation}

    または

    \begin{equation} \mathbb{E}[X] =0\cdot P^{X}(X=0)+1\cdot P^{X}(X=1) =0\cdot1+1\cdot0=0 \end{equation}

    で計算される.

平均に関する注意

  • 標本空間の制限付平均値

    標本空間を \(A\subset\Omega\) に制限した場合の平均値を

    \begin{align} \mathbb{E}[X,A] &=\sum_{\omega\in A}X(\omega)P(\omega)\\ \mathbb{E}[X,A] &=\int_A X(\omega)P(d\omega) =\int_A X(\omega)f(\omega)d\omega \end{align}

    と書くことがある.

  • 確率変数ベクトル

    \(\boldsymbol{X}\) がベクトルの場合は各成分ごとに計算すればよい.

    \begin{equation} \mathbb{E}[\boldsymbol{X}]=(\mathbb{E}[X_1],\mathbb{E}[X_2],\dotsc,\mathbb{E}[X_n]) \in \mathbb{R}^n \end{equation}

平均値の性質

  • 定理

    平均値には以下のような性質がある.

    1. \(\Big.\mathbb{E}[aX+bY]=a\,\mathbb{E}[X]+b\,\mathbb{E}[Y]\) (線形性)
    2. \(\Big.\mathbb{E}[X,\sum_{i=1}^nA_i]=\sum_{i=1}^n\mathbb{E}[X,A_i]\)
    3. \(A\) の上で恒等的に確率変数が定数,すなわち \(X(\omega)=a\) ならば
      \(\Big.\mathbb{E}[X,A]=a\,P(A)\)
      特に \(\Big.\mathbb{E}[a]=a\) (定数の平均値はその定数)
  • 定理

    \(X\) の確率分布が考えられ, \(X\) の確率分布が \(P^X\) あるいは密度関数が \(f^X\) で与えられる場合には以下が成り立つ.

    1. \(\Big.\mathbb{E}[X]=\sum_{x\in\Omega^X}xP^{X}\{x\}\) (\(X\) が離散分布)
      \(\Big.\mathbb{E}[X]=\int_{x\in\Omega^X}xf^{X}(x)dx\) (\(X\) が連続分布)
    2. \(\Big.Y(\omega)=\phi(X(\omega))\) ならば
      \(\Big.\mathbb{E}[Y]=\sum_{x\in\Omega^X}\phi(x)P^{X}\{x\}\) (\(X\) が離散分布)
      \(\Big.\mathbb{E}[Y]=\int_{x\in\Omega^X}\phi(x)f^{X}(x)dx\) (\(X\) が連続分布)

平均値の計算の例

  • 二回の骰子振りの確率変数

    出た目の和 \(X\) の平均値は平均の和の関係を用いると

    \begin{align} \mathbb{E}[X] &=\mathbb{E}[\omega_1+\omega_2] =\mathbb{E}[\omega_1]+\mathbb{E}[\omega_2] =2\mathbb{E}[\omega_1]\\ &=2\left( 1\cdot\frac{1}{6}+ 2\cdot\frac{1}{6}+ 3\cdot\frac{1}{6}+ 4\cdot\frac{1}{6}+ 5\cdot\frac{1}{6}+ 6\cdot\frac{1}{6} \right)\\ &=7 \end{align}

    としても求まる.

演習

練習問題

  • ルーレット回しの確率変数 \(Y\) の平均値を 以下の2通りの確率測度を用いて求めよ
    1. \(\omega\) の確率空間の確率測度
    2. \(Y\) の確率空間の確率測度

確率変数の分散

分散

  • 定義

    確率変数 \(X\) の 分散 (variance) は平均値を用いて

    \begin{equation} \mathrm{Var}(X)=\mathbb{E}[(X-\mathbb{E}[X])^2] \end{equation}

    で定義される.

    分散の平方根を 標準偏差 (standard deviation) という.

共分散

  • 定義

    確率変数 \(X,Y\) の 共分散 (covariance) は

    \begin{equation} \mathrm{Cov}(X,Y)=\mathbb{E}[(X-\mathbb{E}[X])(Y-\mathbb{E}[Y])] \end{equation}

    で定義される.

確率変数の確率空間による計算

  • 離散分布に従う場合 :

    \begin{align} \mathrm{Var}(X)&=\sum_{x\in\Omega^X}(x-\mathbb{E}[X])^2P^X\{x\}\\ \mathrm{Cov}(X,Y)&=\sum_{x\in\Omega^X, y\in\Omega^Y} (x-\mathbb{E}[X])(y-\mathbb{E}[Y])P^{(X,Y)}\{x,y\} \end{align}
  • 連続分布に従う場合 :

    \begin{align} \mathrm{Var}(X)&=\int_{x\in\Omega^X}(x-\mathbb{E}[X])^2f^X(x)dx\\ \mathrm{Cov}(X,Y)&=\int_{x\in\Omega^X, y\in\Omega^Y} (x-\mathbb{E}[X])(y-\mathbb{E}[Y])f^{(X,Y)}(x,y)dxdy \end{align}

分散の計算例

  • 二回の骰子振りの確率変数 \(X\)

    出た目の和 \(X\) の分散は

    \begin{align} &\mathbb{E}[(X-\mathbb{E}[X])^2]\\ &=(2-7)^2\cdot\frac{1}{36}+(3-7)^2\cdot\frac{2}{36}%+(4-7)^2\cdot\frac{1}{12} +\dotsb%+(11-7)^2\cdot\frac{1}{18} +(12-7)^2\cdot\frac{1}{36}\\ &=\frac{35}{6} \end{align}

    である.

  • 二回の骰子振りの確率変数 \(Y\)

    また二つの目の大小関係を表す \(Y\) の分散は

    \begin{align} &\mathbb{E}[(Y-\mathbb{E}[Y])^2]\\ &=(1-0)^2\cdot\frac{5}{12}+(0-0)^2\cdot\frac{1}{6} +(-1-0)^2\cdot\frac{5}{12}\\ &=\frac{5}{6} \end{align}

    である.

  • ルーレット回しの確率変数 \(X\)

    有理数・無理数を区別する \(X\) の分散は

    \begin{equation} \mathbb{E}[(X-\mathbb{E}[X])^2] =(1-0)^2\cdot0+(0-0)^2\cdot1=0 \end{equation}

    である.

分散・共分散の性質

  • 定理

    分散・共分散には以下の性質がある.

    1. \(\Big.\mathrm{Cov}(X,Y)=\mathrm{Cov}(Y,X)\) (対称性)
    2. \(\Big.\mathrm{Cov}(X,a)=0\)
    3. \(\Big.\mathrm{Cov}(X,X)=\mathrm{Var}(X)\ge0\) (正値性)
    4. \(\Big.\mathrm{Var}(aX+b)=a^2\,\mathrm{Var}(X)\)
      \(\Big.\mathrm{Cov}(aX+b,cY+d)=ac\mathrm{Cov}(X,Y)\)
    5. \(\Big.\mathrm{Var}(aX+bY)=a^2\,\mathrm{Var}(X)+2ab\,\mathrm{Cov}(X,Y)+b^2\,\mathrm{Var}(Y)\)
    6. \(\Big.\mathrm{Var}(X)=\mathbb{E}[X^2]-(\mathbb{E}[X])^2\)
      \(\Big.\mathrm{Cov}(X,Y)=\mathbb{E}[XY]-\mathbb{E}[X]\cdot\mathbb{E}[Y]\)
    7. \(\Big.|\mathrm{Cov}(X,Y)|\le\sqrt{\mathrm{Var}(X)\mathrm{Var}(Y)}\)
      (Schwarzの不等式の一つの表現)
    • 特に6.の関係は重要

モーメント

  • 定義

    確率変数 \(X\) の k次モーメント (積率; k-th moment) は,確率変数の \(k\) 乗の平均

    \begin{equation} m_k(X)=\mathbb{E}[X^k] \end{equation}

    で定義される. 分散と同じように平均値を中心として考えた 平均値のまわりのk次モーメント

    \begin{equation} \mu_k(X)=\mathbb{E}[(X-\mathbb{E}[X])^k] \end{equation}

    で定義される.

    • 分散は平均値のまわりの2次モーメントである
  • 絶対モーメント

    確率変数の絶対値のk乗のモーメント

    \begin{equation} \tilde{m}_k(X)=\mathbb{E}[|X|^k] \end{equation}

    k次絶対モーメント と呼ぶことがある.

演習

練習問題

  • 以下の確率変数の分散を求めよ.
    1. 区間 \((-1,1)\) 上の一様分布
    2. ルーレット回しの確率変数 \(Y\)

特性関数

特性関数

  • 定義

    特性関数 (characteristic function) は指数関数を用いて変数変換された確率変数の平均として

    \begin{equation} \phi(z)=\mathbb{E}[e^{izX}] \end{equation}

    で定義される.

    • 特性関数は実数値ではなく複素数値をとることに注意する

特性関数に関する注意

  • Fourier変換との関係

    1次元の連続分布 \(P\) に対して 密度関数 \(f\) が存在すれば

    \begin{equation} \phi(z)=\int_{-\infty}^{\infty}e^{izx}f(x)dx \end{equation}

    となり 確率密度のFourier変換に対応する. 離散分布では

    \begin{equation} \phi(z)=\sum_{x\in\Omega}P\{x\}e^{izx}, \end{equation}

    により計算される.

  • 逆変換の存在

    Fourier変換には逆Fourier変換が存在して もとの関数を再構成できるように, 特性関数と確率測度(確率密度)は一対一に対応している (Levy-Havilandの反転公式).

  • 分布の同一性

    2つの分布の特性関数が同じであれば, 2つの分布が同じであることが言える. 後に中心極限定理の証明で述べるように 特性関数は確率測度の性質を調べるために重要な働きをする.

演習

練習問題

  • 以下の確率測度の特性関数を求めよ.
    1. 区間 \((-1,1)\) 上の一様分布
    2. 標準正規分布
    3. 平均 \(\mu\) 分散 \(\sigma^{2}\) の正規分布

今回のまとめ

  • 確率変数
    • 確率空間上の関数としての確率変数
    • 確率変数の確率空間
    • 複数の確率変数の同時確率(結合確率)
    • 確率変数の平均,分散,モーメント
    • 確率変数の特性関数